博士学位取得 鈴木裕輝夫 Yukio Suzuki

 今春,博士の学位を取得いたしました鈴木裕輝夫です。
 今後,博士の学位取得に挑戦される方,博士課程前期修了にて修士として社会に出られる方へ何か参考になることを記しておこうと筆をとりました。博士の学位を授与されて1か月しか経っていないのに,ずっと前のことのように感じるのは不思議なものです。やはり今の時期に何か記しておくことは重要なようで,投稿をお勧め下さった田中先生に感謝いたします。
 私は,製造業の会社でエンジニア,開発業務を含めて20年ほど経験した後,東北大学の西澤センター試作コインランドリに奉職いたしました。大学の半導体共用設備群を利用した企業の試作開発を技術支援する仕事です。その後すぐに博士課程後期に編入学が許され,博士課程研究を行っておりました。この3年間,研究のみに没頭することはできませんでしたが,経済的には心配がない恵まれた立場をいただいておりました。私は,いくつかの業務を並行して行うのが得意で,その方がトータルとして集中できる性質です。学位取得研究に取り組むのと並行して,仕事として西澤センターで企業研究者の技術相談を行ったり,実験をサポートしたりすることは,けして苦ではありませんでした。困難な問題を克服しようとしている熱心な企業研究者を支援することでかつて自分がいた企業社会と接点を持ち続けることができ,アカデミック界との壁を緩やかに超えることができたと実感しています。
 最後の数か月間の学位論文をまとめる段階はとても厳しい体験でした。大学にはたくさん博士の先輩方がいますが,けして学位論文まとめ時の苦労話をなさらなかったので,これほどの苦労なのかと,驚き,嘆きながらの執筆でした。田中先生には「楽に書いた,楽に博士をとったという人はいません」と何度か励ましていただきました。博士論文が書き終わるまで,最後の最後まで,熱心に私を見捨てずにご指導いただいた先生に感謝の気持ちでいっぱいです。私の今までの人生にはなかったとても良い経験をしました。
 私に限らず,博士課程後期には多様な立場の方たちが在籍します。企業から給料をいただいている研究員の方,大学の研究プロジェクト雇用の研究員の方,企業を定年退職された方,また,順当に前期課程修了後に進学する方など多様です。それは日本にあって博士課程後期が唯一,進学のタイミングが自由であることの証ではないでしょうか。私の場合,大学を卒業した時にはそれ以上の教育を収める意欲も,経済的ゆとりもありませんでした。40歳を過ぎたある日,”その時”が訪れたのだと実感しております。
 日本では、大学に入学するのは高校を卒業してすぐの18,19歳ごろというのが一般的であり,実は世界の常識とは大きく異なっています。文部科学省の統計データによりますと,大学入学平均年齢はアメリカ27歳,オーストラリア26歳,ノルウェー30歳となっています。何を学ぶべきか気づく,深く学ぶ意欲がそなわる,経済的,環境的に整う,それらの時期は人それぞれ異なるのが普通であるはずです。日本の大学入学時期が一様なのは,何かさみしく感じます。“まっすぐな道でさみしい”(1)。それぞれの人で異なる”その時”,最高のタイミングでの学びを得る機会が失われているのではないかと危惧します。日本においても進学のタイミングが自由な後期課程を貴重に感じます。博士課程前期終了で社会にでる方に申し上げます。将来,学びの期が熟した時には,そのチャンスを逃さずに学位取得のために大学に戻られては如何でしょうか。

(1)私の好きな自由律俳人,種田山頭火の句。”まっすぐな道でさみしい” 575ではありませんが俳句です。旅のあるとき,“まっすぐな道”があった。先の見通せるまっすぐな道を歩いていくさみしさをポツリと詠んだ句です。

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